料亭 河文(名古屋・丸の内) 2010/10/28
一昨日の木曜は早朝からオフィスに詰め、仕事を早々と切り上げお茶会に...
午後の仕事の前に、束の間でしたがささやかな贅沢をさせていただきました。
雨の中、オフィスビルが犇めく丸の内へと車を滑らせました。
お茶席は
料亭「河文」ということでしたから、昼食もたのしみのひとつ...
名古屋城の南方を、東西に走る魚ノ棚通りに面した「河文」の屋根付き塀です。
この塀の東寄りに格式ある構えを呈する表門があります。
400年の歴史を誇る「河文」は、尾張徳川家とも縁の深い老舗で、
名古屋屈指の料亭と云われるだけあり、建造物は国の登録文化財です。
空襲で焼失した建物は「篠田川口設計事務所」の設計により再建されました。
今回、通常触れることが叶わぬお茶碗でいただけると聴き、
どんなお道具かと、前の晩は嬉しいやらドキドキするやら、
また久しぶりの濃い茶席に、お点前をする訳でもありませんのに、
高揚と緊張の波が交互にやってきて眠りにつけないほど...(笑
主催は古美術に造詣の深い楚々とした女性で、お取り扱いもされている方。
亭主を務められた彼女のご主人さまには、この日初めてお目にかかりました。
またご正客には、お茶道具の蒐集で知られるH氏を迎えられ、
今回のお茶道具のほとんどはそのH氏のご提供と伺いました。
期待に胸が高鳴ったのは私ばかりではないようでした。
一緒にお席入りした友人が、懇意にされている古美術店に
いつだったか同伴したのがご縁で、今回のお誘いを受けた次第です。
日頃、なにかとドタバタして落ち着きのない私を気遣ってくれる、
この、仕事を持たない友人との語らいは貴重で、穏やかな時間です。
何年か会えない日が続いた後でも、まるで昨日まで一緒だったような...
茶道に於いては、お点前から喫茶に至るまで所作がとても美しい女性で、
いつも家庭におさまり、良き妻、良き母の役目をきちんとこなされてきた方。
無作法な私にとっては、見習うことばかりの頼もしい友人でもあります。
さて、こちらは↓ お料理をいただいた「水鏡の間」に隣接する水を湛えた庭で、
池の向こうには、戦後の再建期に建てられたという新用亭が佇んでいます。
お濃い茶席の後の昼食前のひと時、しばしぼんやりと...
池の水面を打つ雨粒が、輪をつくり幾重にも広げます。
連続する美しい波紋を眺めながら、「雨の日の景色もいいよね!」とふたりで...
河文「水鏡の間」より望む「新用亭」と「流れ床の庭」
彫刻家の流政之氏が手がけられ、「流れ床の庭」と命名されています。
池に敷き詰められた石が薄い青だそうで、景色が水面にうっすら影をおとします。
端に設えられた石の舞台では、毎年様々な催しもあり贔屓の客が集います。
この池を望む広間、「水鏡の間」でゆったりとお食事の席が設けられました。
設計は昭和の巨匠、モダニズムの建築家と知られる故・谷口吉郎氏で、
赤坂迎賓館を手がけられた谷口吉郎氏のここはその習作ということです。
40年程前の設計だそうで、当時としては斬新な作品と今も尚注目されています。
シンプル・和モダンの佇まいは凛としていますが、心地よい開放感があります。
お茶席の写真はありませんが、H氏が提供されたお道具はどれも素晴らしく
おそらく二度とはお目にかかれない逸品揃いで、至福のお茶会でした。
亭主のご生家もお道具を取り扱われていたというだけあり、
幼少時から本物を見てこられた方のようで、お点前はのびやかなもの。
お道具も喜んでいるように思えました。
久しぶりの濃い茶席は15名ほど...
お席には、表の方が多かったような気がしましたが、
様々な流派の方が会したこの茶会は無茶流...ということでした。(笑
主菓子は亭主と相性の良いお菓子やさんのもの。
紅葉の彩りが鮮やかな巾屯は、お芋の風味もあり大ぶりで小豆餡も美味しい...
ご夫妻が贔屓にされているという、確か大須の「長寿園本店」製と伺いました。
「美味しいから小さなお店ですが、好きなんですよ」の言葉に好感を持ちました。
お濃い茶の煉り具合もほどよく、とても美味しくスッキリといただきました。
かなり緊張してお席入りしましたが、主催のご夫妻やご正客のお人柄ゆえ、
今回の濃い茶席は、これまで体験したことのないような心温まるものでした。
さて、こちらは濃い茶席の後、水鏡の間でいただいたお料理(前菜)です。
写真はこれ1枚ですが、後に続くお料理のどれにも季節が添えられ、
素材の持ち味が生かされた、手を加え過ぎないお味には舌鼓でした。
食事中も、H氏のコレクションの徳利やお猪口が目を楽しませてくれ、
さらに食後のお薄は、床の間に並べられたのコレクションから、
好きなお茶碗を選んでいただけるという、嬉しい趣向でした。
お薄のお干菓子も秋を告げる稲穂で、こちらもしっとりと美味でした。
私は優しい色合いの、印象よりは思いのほか軽い井戸茶碗でお願いしました。
確かに器は使ってこそのもの...
とはいえ、高価なお茶碗を惜しげもなく貸してくださり感謝です。
H氏はご自分でも語っておられましたが、とにかく集めるのが好きと...
そして、これらを皆さんに見ていただくのが歓びだとも。
和気藹々の雰囲気で、ゆるゆると心がほどけるお茶会で、
今後もこのメンバーで集いましょうと盛り上がる楽しいひとときでした。
重すぎず、構え過ぎずのこんなお茶会がいちばんと、
未熟な私にそう思わせてくださる皆さんのご配慮にも、改めて感謝でした。
流れ床の庭 「石舞台」
この石舞台では「お能」や「狂言」、また恒例の名妓連による特別公演も催されます。
雨に打たれた柳が、このモダンな池に風情を添えていました。
料亭 河文
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